【コラム】僕と父のバック・トゥ・ザ・フューチャー

 

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※画像はWikipediaより引用

https://ja.wikipedia.org/wiki/バック・トゥ・ザ・フューチャー

 

 

バック・トゥ・ザ・フューチャーを知っているだろうか。

 

1985年に公開された、ロバート・ゼメキス監督の映画作品。製作総指揮はあの、泣く子も黙るスティーブン・スピルバーグであり、80年代のすべてのスピルバーグ作品がそうであるように、この作品も発表当時から恐ろしいほどのヒットを飛ばした。

脚本、演出、キャスト、音楽。何から何まで完璧な作品と呼ばれ、今もなおファンが絶えないという怪物作。

 

今僕は、それと同じ状況にいる。

もっとちゃんと説明するなら、今僕は、「自分の両親が僕と同じ年齢だったころの時代」にいる。

嘘だと思うだろう?

そんなの僕が一番思っている。

僕の知り合いにはタイムトラベルを画策する変わり者の科学者はいないし、今週末に彼女と湖でキャンプするために車が必要なわけでもない。そもそも彼女はいない。

なぜこうなったのかまるで理解できなかったが、過去へ戻ったのには、戻ったなりの理由があるんだろう。

僕は自分と同じ、高校生だった頃の両親を探した。

しかしよくよく考えてみれば、うちの両親は年が10離れていた。つまり、母と僕が同い年の16歳ということは、父はこの時代には26歳ということになる。なんだ、犯罪じゃないか。

母は案外簡単に見つかった。僕が通っている高校に母が通っていたからだ。

母は普通の女子高生だった。部活をし、友だちもいてそれなりに楽しそうだが、頭はあまり良さそうじゃない。

実際、僕の母は頭があまり良くない。というか悪い。「女将」という漢字をいまだに「めしょう」と読み続けているくらいには悪い。

三つ子の魂百までと言うが、この頃からすでに母の頭脳は完成されていたようだ。

 

続いて、父を探すことにした。

だが、そもそも僕はこの頃の父が何をしていたのかを知らない。26歳という年齢を考えれば、恐らくどこかしらで社会人として働いているはずなのだが、そういえば、二人はどうやって出会ったのだろう?馴れ初めについては、興味もないから聞いたこともなかった。

どうしたものかと実家近くをうろついてると、公園の隅で、スウェット上下にギターをかき鳴らしているやばい男がいた。

ああこいつはやばいヤツだと思ったと同時に、僕は直感した。

『父だ!』

26歳の父は、上下ユニクロのスウェットを着て、ブランコに座りながらクラシックギターをかき鳴らしていた。もうこの表現だけで十分やばいんだが、それが自分の父親だと知った僕の胸中はもっとやばかった。

走り出してそいつの顎を粉砕してやりたい衝動にかられつつも、僕はその26歳の父に声をかけてみた。

「こんにちは」

すると父は、ギターをかき鳴らしていた手を止めて、こちらに向かって愛想よく「やあ」と返してくれた。

「いつもここでギターを弾いてるんですか?」

「うん。今の俺には、これくらいの事しかできないから」

何言ってんだこいつ。

「お仕事は何をされてるんですか」

「仕事ねえ……」

突然父はフッと微笑むと、いきなりギターをじゃらんと鳴らした。

「君はまだ若いから分からないかもしれないけど、俺くらいの年齢になるとね、仕事って、したら負けなんだよ」

マジで何言ってんだこいつ。

「これは一種のスポーツなんだよ。仕事をするしないのチキンレース。決して働けないわけじゃないんだよ?でもね、俺はあえて働かないんだ。世の中で汗水垂らして苦しんで働いている社会人たちのために、働かないという選択を泣く泣くしているんだよ」

ただの無職の発言だった。それもかなりたちが悪い。

気づいたら僕は、父のギターを奪い取っていた。そして、奪い取ったそれで父の顔面をしたたかにぶん殴っていた。

父はブランコの下にうずくまり、めちゃくちゃ泣いていた。だが、それ以上に僕は号泣していた。親のこんな過去なんて見たくなかった。

 

そのあとの記憶はあまりない。

ただ、気がついたら僕はもとの時代へ帰ってきていた。

起きて食卓へ行くと、いつも通りに頭の悪い母が頭の悪そうな朝食を作ってくれていた。「これ、なに?」と訊くと、「塩味噌汁」と母は答えた。いわく、具がなかったからとりあえず塩を入れてみたらしい。なんだそれ。そんなの入れるくらいなら味噌汁なんて作るな。

「母さんはどうして、父さんと結婚したの?」僕が尋ねると、母は少し驚いた様子で僕を見た。そりゃそうだろう。そんなの今まで一度だって聞いたことはなかったんだから。

「そうね」と、母は少し照れたように笑った。

「母さんが高校生のとき、部活中に足を骨折して入院したことがあったの。そのとき、父さんも入院しててね、父さんはただ顔が腫れてただけで他は全く問題なかったんだけど、どうも誰かに殴られた衝撃で記憶が飛んでしまったみたいで、今まで自分が何をしていたのか全く思い出せなくなっていたの。それで話していくうちに、記憶がなくて自分でも不安なはずなのに、すごく優しくて良い人だな、とわかって。そこからお付き合いすることになったのよ。

父さん、結局記憶は戻ってないみたいだけど、母さんと付き合い出してから勉強して大学に通いだして、今では立派にお医者さんなんだから、偉いわよね

そうか、と、僕は塩味噌汁をすすりながら思った。

僕が過去へと戻ったのは、あそこで父をぶん殴る為だったのか。

そのおかげで父は就職し、二人は結婚できたわけだと。

すべて腑に落ちた。

だがそれと同時に、「だとしたら」とも思った。

「あともう一発くらい殴っとけば良かった」

 

 

 

 

 

 

 

※この作品はフィクションです。実在の作品、人物、団体などとは一切関係ありません。